設立趣意書
私は5歳のときに孤児となり、11歳から労働に従事するようになりました。自分の逆境をかえりみて早くから、いまにきっと国家社会のために尽くそうと自分の心に決めました。それからは、自分としてはできるだけの努力をしてきたつもりです。家庭をもってからは、妻ヨシと長い歳月力をあわせ、心をひとつにして、家を斉え、産を治めて、ついに2府20県に山林を所有するようになりました。
ところが、本年4月1日思いがけなく力と恃む妻が亡くなり、人の世の無常を痛感しました。木原家が今日あるのは亡き妻のなみなみならない協力によることを追慕するうちに、この際、己に施すことが薄く世に報いることの厚かった妻の志を末永く生かす方法を考えることこそ、この上ない追善になると思うようになりました。それには、幼少のときから抱き続けてきた国家に尽くそうとする考えを、できるだけ早く実行に移すことがよいと決意しまして、差しあたり財産の一部を寄附して、公益法人を設立することにしたのであります。
この財団を設立する目的は、一言で言えば、私が多年の経験によって体得したところの、造林および山林のもつ広大無辺の功徳をもって、永遠に、日本の国家社会のために尽くすことにあります。
造林事業というものは、大自然の力に、敬虔な人間の努力が調和して、初めて成果を上げるものでありまして、これにたずさわる人々は、その恵みによりまして、精神的にも物質的にも、家庭生活の幸福を享けることができるものであります。その結果育成されます森林は、風雨を調え、気候を緩和し、山地を治めて水害を未然に防ぎ、浄泉を潤沢にして万物をうるおします。その美しい景色は人の心を和らげ、また林産物を供給する宝庫となります。その効用の量ることのできないほど大きいことは、まだ十分には知られていないように思われます。
わが国は国土の3分の2を山地が占めているといわれ、しかも温暖帯であって降水に恵まれ、樹木の成長は良くて、針葉樹の生育に適した好い所が少なくありません。山林はこれを青々とした美林として維持してゆくことが、その自然的効用を大きく発揮させることになると同時に、永遠に林産物の供給を続けてゆくことにもなります。それですから山林を公益事業の財源とし、その経営を堅実な基礎の上におくならば、その自然的効用によって国家社会に量りしれない大きな貢献をするだけではなく、その目的とする公益事業を安定して永遠に継続させることになります。その理由は、樹木には生命がありますから、伐った跡に植えてゆけば、繰返し生産できますから、優良な山林があれば必ず年々相当の収益を挙げることができるからであります。この収益をもって、山村の人材の養成や育英に資する事業、林学その他学術の進歩、科学技術の発達に資する事業、林道の開設や未立木地の造林とか不良林相の改善に資する事業など、国民の福祉の向上に資する公益事業を行うことが、この財団設立の目的であります。
なお、この財団の名称は、私ども夫婦の信仰が厚かったためと信じていますが、数年前に、多年抱いてきた国家に尽くそうとする事業は、「木原大和事業団」と名づけるようにとの啓示を、夢うつつのうちに感得いたしまして、歓喜したことがあります。それですから、この法人の名称を定めるのに、恭しくこれを奉ずることにしました。そして、亡き妻「営林院殿豊室良光禅大姉」の「営林」にちなみまして、「木原営林大和事業財団」としたしだいであります。
昭和41年10月28日
設 立 者
東京都新宿区市谷砂土原町2丁目2番地
木原 崇雲