平成30年度調査研究報告

杉浦 孝蔵

ムベ(Stauntonia hexaphylla Decne.)の活用について

 

1、はじめに

 今年度の調査・研究は、予定では近県の茨城、神奈川県の民有林を対象に考えていたが、財団事務所の移転、その他諸般の事情から両県の調査が不可能となった。

 幸いに本年の緑の少年団の対象県は滋賀県であり、本年36日の朝日新聞に滋賀県北津田町地域でムベを栽培している記事を思い出し、緑の少年団の顕彰式後に現地に伺い、栽培者にムベ畑の案内とムベの地域振興に取り組んでいることの説明を受けたので、これを取りまとめ調査・研究報告としたい。

 

2、ムベについての概略

 (1)ムベの生態と分布

 ムベはアケビ科のつる性の常緑木本植物で、雌雄同株である。初めは葉が1枚出て成長するに従い35枚、7枚と増える。45月に白色で淡紅紫色の花をつける(写真1

秋には鶏卵よりやや大きい赤紫色の実をつけるが、アケビのように裂開しない(写真2・ 3

果肉は白色で食べると甘い(写真4

 ムベの分布は、山形県飛島を北限1とし、本州の中南部から九州、沖縄などに分布している。

 (2)ムベの地方名

 ムベの地方名は、ウベ(高知県、鹿児島県など)、ウンべカズラ(鹿児島県)、クベ(長崎県)、ションバタコ(三重県)、タワラアケビ(高知県)、トキワアケビ(和歌山県)、フユアケビ(島根県)、ホンムベ(鹿児島県)など約30種ある(表1)。

 (3)ムベの名由来

 天智天皇が蒲生野に猟にお出かけになった際、この地で8人の子供がいて至極達者な老夫婦に会われ、長寿の秘訣を尋ねられたところ、「この地に毎年秋になると産するムベを食べているお陰で無病息災でございます」とお答えし、ムベを差しだした、一口食べた天皇は「むべなるかな(もっともである)」と。この時の「むべ」そのまま果実の名になったと言われる説2。もう一つは、そこで天皇は毎年これを貢進するよう命ぜられた。その結果近江の国から毎年朝廷に献上したので大贄の中に琵琶湖に産する魚(氷魚、鮒、鱒、阿米魚)と並んでムベが加えられた。この「おおにえ」が「おおんべ」→「おんべ」→「うべ」→「むべ」と転訛したものだといわれている3

 

3、近江八幡市におけるムベの栽培概況

 朝廷への献上は1982年まで続いた。また天智天皇を祭神とする大津市の近江神宮へも1940年創祀以来毎年献納を続けている町の大嶋神社・奥津嶋神社の宮司深井武臣氏は市役所に勤務していた時から、ムベを町のシンボルに、ふるさとに誇りを持ちかけがえのない景観を守ろうと思っていいた。そこで市職員や会社員が集ってまちづくり委員会を結成、「むべに親しむ郷づくり」を1995年から始めた。秋には町内のどこでもムベの実がみられるようにしたい、と努力している。

 近江八幡市におけるムベの面積は定かでないが前出の朝日新聞によると前出幸久氏は約300本育てている、とある。(写真5)

 長い間ムベ献上の供御人を担っていた家があったが、町外へ出られたその他の事情で献上が中断していた。途絶えていた皇室への献上はどうしても復活したかったという。神社が中心になって県を通じて働きかけ、ようやく献上の許可がおりたと言う(深井武臣氏、大嶋神社・奥津嶋神社宮司)。皇室への献上再会実現は、1878年に明治天皇が北陸に巡幸した折、当時の滋賀県令がムベを献上した。

 

4、ムベと人とのかかわり

 ムベは常緑で葉は濃緑を保ち、掌状複葉で小葉は初めに出る葉は1枚で次に2枚、3枚、5枚、7枚順次増加し、7、5、3となるので、これを「七五三(しめ)づる」とも呼ばれ、縁起のよい木であるが、豪農や大名が邸内に植えたと言われている。また、武士はアケビは下賤、ムベは高貴であると称してムベだけ食べたと言う4)

 民間では実を食べるほかに葉や根を利尿剤として用いている5

 ムベは実が熟してもアケビのように開かないから籾ぬかの中に埋めておくと冬には赤くなりおいしく食べられる(写真4)また、皮は日向に干して、煎じて蒸し風呂に入れ体を温めた6)りした。最近は観賞用として垣根として植えているのを見受けることがある。

 朝日新聞(前出)は「不老長寿の伝説秘は果実?」の見出しで、2015年の平均寿命のランキングで滋賀県が初めて男性81.78歳、女性87.57歳で男女の長寿都道府県ベスト5以内にあるのが(表2)その原因はいろいろあるが、先に記述した「不老長寿伝説を取りあげて説明している。

 

5、おわりに

  ムベはアケビと異なり、一般に認識されていない。一様に食べると甘く美味と言う。筆者が2007.11.3250/個)2008.11.18300/個)に埼玉県で栽培したムベを求めて食べたが美味ではなかった。果肉はアケビ同様の甘味があるが、果皮は食べられない。

 前出幸久氏の家族はうむべ()(あめ)、ワインなどに加工、長男の妻(山形県出身)は「むべソーダ」も開発したという。(写真6)

 近江八幡市におけるムベの栽培は約10年前からであるが、生産量は少ないと推測する。荒地を活用した面積の拡大、10a当りの植栽本数、立地を考慮した施肥技術などの検討課題が多い。今後の研鑽に期待したい。

 

 

 

 

引用文献

1)奥山春季:採集・検索日本植物ハンドブック、八坂書房、1974

2)吉川翠風:木の花漫歩、丸井図書出版株式会社、1988

3)深津正:植物和名の語源、株式会社八坂書房、1991

4)冨成忠夫・秋山久治:原色山菜、(社)家の光協会、1980

5)本山荻舟:飲食事典、平凡社、1977

6)橋本鉄男(代表)、日本の食生活全集、聞き書、滋賀の食事:(株)農山漁村文化協会、1991

 


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